1985年、南フランスのサン・ポールの村を描いていると、初老の夫婦が傍らにやって来て、私の絵をしばらく見ていました。
しばらく話しをしたあと、今描いている絵を売ってくれないかと言います。
外国で描いているとよくそういうことを言われるのですが・・・、この時も、まだ出来上がっていないので断わりましたが、なかなか諦めてくれません。
しかたなく根負けして、「それでは日本に帰ってから仕上げてから送ってあげます」とのことでやっと帰っていきました。帰国してその絵を仕上げた後、約束通り送ってあげたのですが・・・。
それから3週間ほどたった頃、1通の手紙が届きました。
中には、2枚の写真と小切手が手紙に添えられていました。
このご夫婦が言うには、まさか道端で会った私から本当に約束通り絵が送られてくるとは半分思っていなかったとのこと・・・。
実はこの夫婦は共にに再婚で、新婚旅行で南フランスに来ていたらしく、その後ノルマンディに戻って結婚式を挙げたとのこと。そして式を挙げて初めて届いたものが私の絵だったらしい。
2枚の写真のうち1枚はその結婚式の写真で、あとの1枚は南フランスの村で出会った時に撮ってくれた写真でした。
その後、フランスに来たら是非寄ってくれと言われていましたが、なかなか実行できずにいました。2年ほど後にノルマンディに行き、再会を果たしました。
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グランヴィル
パリのモンパルナス駅から急行で約5時間、グランヴィルの駅に着くともう真っ暗になってしまつていましたが、ご夫婦で駅まで迎えにきてくれていました。
2日半の滞在中、大変お世話になってしまいました。
私のほかに私の仲間達がいたのですが、快くもてなしてくれました。大きな家を2軒持っていて、そのうちの1軒を我々に提供してくれたのです。
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グールデル宅で夕食
到着した日は遅くまでご馳走になりながら歓談したため、翌日は多少疲れが残りましたが、車でのんびりと近くを案内してもらいました。
有名な「モン・サン・ミシェル」やグランヴィルのカテドラル、城、港(彼らはそこに素晴らしいヨットを持っていました)、クリチャンディオールが生まれた町らしく、そのゆかりの地も案内してくれました。
訪れたのは2月で、残念ながら少々寒かったのですが、観光客がいないため静かな旅をすることができました。
観光旅行はいつでもできますが、その時の様な旅行はめったに経験出来ないと思います。
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彼のヨットで モン・サン・ミッシェル
別れの時、パリへ戻る我々の列車がゆっくりと動き出した時、列車から身を乗り出して、ホームで手を振る老夫婦に叫びました。J'ai passe le bon heure avec vous! Je reviendrais encore!
それを聞いて老夫婦はいっそう大きく手を振ってくれました。
何んだか・・・映画の一コマを自分が演じているような・・・。
グランヴィル駅
またいつか、春の季節に訪れてみようと思っています。(1999年筆)
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