カーニュ・シュル・メール
四十年以上前、私がまだ学生だった頃のこと・・・、マルセイユからイタリア方面に向かう列車の車窓から、丘の上にこの古い村を見つけることができました。
カンヌ、アンチープを過ぎるとまもなくこの村が左手に見える筈であり、注意深く車窓からそれらしい村を探していた。
それがカーニュとの最初の出会いでした。

その時はあいにく訪れることなく、そのままイタリアに向かってしまいましたが、いつの日にかこの村を訪れようと思っていました。

かなり以前からこの村のことは知っていました。
かつてルノアールをはじめ、多くの画家が訪れ、移り住んだ村「カーニュ シュル メール」・・・。
最初にこの村を訪れたのは、それからだいぶ経ってからのことでした。
正確には、この村は小高い丘の上にできたオー・ド・カーニュと海辺のクロ・ド・カーニュに分かれているが、何と言ってもオー・ド・カーニュが素晴らしい。
カーニュ
                     カーニュ・シュル・メール

オー・ド・カーニュはこの地方に多い典型的な「鷲の巣」村で、その歴史はかなり古いようです。
地中海から丘の頂上に向かって一本の小径が続いています。
小径の両側には歴史の重さを感じさせる建物が並び、その建物の壁、ドア1つ1つに遠い中世の昔を感じることができます。
いつ来てもサン・ポールに比べると極端に観光客が少なく、のんびりとその良さを楽しむことができます。

村全体が丘の上にあるため、坂道が多い村です。かつて、ルノアール、モジリアニ、スーチン、マチス、シャガールが、また、藤田嗣治、梅原龍三郎がこの小径を同じようにいきを切らせて通っていたのかと思うと感慨もひとしおです。
キャンバスを抱えて歩いていると、なぜか自分も大画家なのではないかと思えてきたり・・・。

頂上にある古城は現在博物館になっており、昔のワイン醸造道具等が展示されている他に、多くの絵画も展示されています。
その中に藤田嗣治の20号くらいと思われる絵がさりげなく飾ってあります。注意深く見ないとレオナルド・フジタのサインに気が付かないかも知れません。
また、古城の脇に小さな広場があり、その向かいにある小さな家にブリジット・バルドーが一時住んでいたということを知る人は少ないかもしれません。

1998
年に訪れたときは、近在の小学校の子供達が見学に来ており、そのためか入場料が無料でした。
塔への古い急な木製の階段を上がると城の屋上に出られる。ここからの360度のパノラマの眺めは素晴らしい。
南フランス独特の赤い屋根の向こうに青い地中海を望むことができます。
この村の全景を描くには、村の西側の丘に上がって見るとよいと思います。私もこの丘に登ってキャンバスを立てて描いて描いています。
特に、午後になると西日が当たり、建物の一部が輝き、素晴らしい景色となります。また、ずっと村から離れて海岸の辺りからこの村を遠く眺めてもおもしろい絵になります。もちろん、村の中の小径や建物も小品を描くにはよいモチーフとなります。

村から東に歩いて行くと、ルノワールのコレット荘があります。
コレットより
                 コレット荘の庭(遠くに見えるのはカーニュの村)

(著書「南フランスに魅せられて」より)